土壌微生物の多様性とバランス
大腸に棲む細菌を「腸内細菌」といいます。通常ウイルスなどの異物は免疫システムにより体内から排除されるのですが、免疫寛容という仕組みによって排除されないものがあります。この仕組みによって共存を許された細菌のひとつが、腸内細菌なのです。
お話しを野菜の土作りに戻します。土壌には多種多様な微生物が存在し、その数は1グラムの土壌に約100~1000万にもなるといわれています。
そして、土壌微生物は、自ら相手の微生物の生育を阻害する物質を生産し、スペースを取りあったり、堆肥などの有機物などのエサを奪い合ったりしながら勢力が増減します。
一方、土壌微生物はお互いに共存するものもあり、増減を繰り返すことで種類と個体数のバランスを保っています。これを土壌微生物の多様性といいます。
土壌微生物が偏ると障害を
多様性が失われ、バランスが崩れた土壌は、植物の病害や生育不良を招きます。多様性を保つことは、良好な生育環境をつくる上で大切なことです。これが土作りの姿です。
私たち人間の腸内細菌も同様に、多様性のバランスが保たれることで健康が維持されています。そこで土壌微生物の働きと病害の回避方法、有機物の正しい利用による生育環境の作り方について解説します。
本当の土作りの方法とは有機物で地力を維持・回復させるために堆肥や繊維質の多い有機物を投入し土壌微生物の数と多様性を増やしバランスの良い土壌微生物の活躍の場を提供することにあります。
土作りは腸活のよう
まさに、人間の免疫力を上げるために腸内細菌を増やしその多様性のバランスの取れた腸内フローラを獲得するのに似ています。有機物の投入による土壌微生物の活性化は、地力窒素の増加、病害の抑制、透水性・保肥力の改善など作物が健康に生育するために必要なさまざまな効果をもたらします。
また、土壌微生物のエサになる有機物を連用することは、養分保持力に優れた腐植を形成するなど、土壌自体が持つ地力の維持・回復につながります。特に繊維質の多く含まれる有機物、萱、バーク(木くず)などは最適といわれています。
目標は団粒構造の土に
土作りは最終的には、土壌の構造にも変化をもたらし、理想的な団粒構造を獲得することにあります。団粒構造の土は水分を適度に保ち、通気性が良く、肥料の流亡を防ぎ、作物が必要な時に必要な分の水分と肥料分を得ることが出来るようになります。
しかし、土作りで、この団粒構造の土壌まで仕上げるには、各種の微生物、菌類、土壌改良剤、良質の有機物、良質の堆肥を投入して数年の期間と粘り強い管理者の努力が求められます。
微生物を活性化 地力窒素を増す
植物は有機物をエサにして増殖した微生物の死がいが分解されてできた窒素を吸収します。有機物投入は、この地力窒素を増やします。土壌微生物の多様性を維持し、病害の発生を抑制できるようになります。微生物の多様性とはバランスが良くなることです。
多くの病害は、微生物の多様性に偏りが生じることで発生しやすくなります。良質の堆肥を投入することで、土壌微生物の多様性を保ち、連作障害を引き起こす特定の病害菌の増殖を抑制することができます。
畑の連作障害を克服
現在、一般的な連作障害の多くは、同じ作物をつくり続けた結果、土壌微生物の多様性が崩れ、増殖した病原菌によって引き起こされています。連作とは、同じ作物を同じ畑に毎年続けて作付けすると、いろんな生育に関する病気や障害が現れてきます。このような障害を一般に連作障害といいます。
なぜこのような現象が起こるのでしょうか。通常、植物は根から養分を分泌しているため、根の周囲1~2ミリの根圏では大量の微生物が活発に動いています。そのため、病害菌が侵入する余地がなく、病害に対する抵抗力を持っています。
また、最近では、植物体内に生息し病害に抵抗する機能を持つ微生物である「エンドファイト」の存在もわかってきました。「エンド」は体内、「ファイト」は植物を意味し、窒素や糖分などをやりとりしながら共生し、植物の免疫機能を活性化させるとの報告があり、今後の研究が期待されます。
しかし、特定の作物の栽培と収穫は、残渣に残る特定の病原菌が増大し、根圏微生物のバランスで防ぎきれずに発病にいたります。これが連作障害のメカニズムです。
堆肥で土作りした畑は
内城菌やワーコムなど土壌改良資材を利用して堆肥を作り、土壌微生物を有効利用することで、団粒構造の理想的な土壌に変革することが可能になります。
そのためには、内城菌やワーコムなど土壌改良資材を畑に直接散布することによる直接的な方法の他、大量の内城菌やワーコムなど土壌改良資材を増殖した堆肥を畑に投入すること理想に近い団粒構造の畑に変換することも可能になります。
その後も、継続的に土壌微生物のバランスや土壌菌量を保ちながら維持していく必要はありますが、土壌の改良がすすみ作物の生育や品質が健全化されるには多くの資材と資金、時間と労力がかかります。
土壌細菌の絶対数が多くなり継続的に土作りを進めることで、土壌が団粒構造化して理想的な畑が出来ます。病気に強い健康な完熟にんじん作りをするには、土壌から変えなければなりませんでした。土壌微生物が月山高原の畑を耕すといってもいいでしょう。ここまで来るには10年の歳月かかっています。
赤土の荒地が黒っぽい畑に
月山高原で実践してきた事例をご紹介します。IT企業で働いていた高田さんが脱サラし、農業を実践してきた事例です。人参などの作物を栽培してきました。人参を栽培する月山高原の畑は、元々、石ころ交じりの赤土の畑でした。生産者は継続して、その荒地に大量の完熟堆肥を投入し続けてきました。
繊維質の多い牧草などの有機物、バーク、木材くず、貝化石、そして発効促進してくれる発酵を促進する菌類を混ぜて高温発酵させ堆肥化して大地にすき込んでいきます。
土壌1gの中には1万個以上の微生物、6000~50000種のバクテリアが存在しています。この土壌細菌の力を信じることでこの畑の土壌改良を続け、土壌の可能性を最大化して土作りをしてきました。
この実践をしていく中で、土壌細菌の絶対数が多くなり継続的に土作りを進めることで、土壌が団粒構造化して理想的な畑に近づいています。月山高原のにんじんの栽培は格段に生育障害や病虫害は減少して、見た目も良く、美味しい赤色の濃いふっくら果肉の人参に仕上がっています。月山高原で実践している事例です。
▼月山高原の景色