野菜の生産性を高めること
健康な野菜と逆行する問題の一つに野菜を成長させるのに必要な成分である窒素の残留があります。これはお天道様を拠り所に野菜栽培するうえで避けては通れない問題です。真剣に取り組めば取り組むほどに生まれてくる野菜栽培に欠かせない問題。一生懸命美味しい野菜を生産しようとするとき起きる日常的な現実問題といえます。
もう一つ、誤解を恐れず申し上げたいのは、野菜の生産は肥料の三要素を中心に窒素肥料なしでは野菜栽培は成り立ちません。生産量を伸ばすことは農業経営上不可欠の問題です。野菜の生産性を意識して経営をしていくと三要素を中心にした肥料設計をして高い収穫量を求め栽培計画を作りあげます。
栽培計画と気まぐれお天気リスク
しかし、お天気が人の想定するより悪化するとこの計画は想い通りの収穫量を獲得できなくなります。生産量が低迷します。そして硝酸態窒素も消化されないで残ってしまうことになります。
抜群の栄養価を誇るホウレンソウですが、その素晴らしさにマイナスの影響を与えるのが「えぐ味」です。天候不良や未消化の窒素が残ると出やすくなるといわれています。えぐ味の元になる硝酸態窒素やシュウ酸は、肥料の与えすぎや、天候不良による光合成不足によって、植物の栄養として消化しきれずに多く残留してしまいます。
天候が良く日射量が十分であれば問題ないのですが、天候不順になると簡単に起きてしまう問題です。これは人体にはとても悪い影響を与えるもので、発がん性物質とも言われています。同時に、別の面で、生産者も収穫が減収するという痛手を受けているのです。
硝酸態窒素が残留する問題
これは、生産者が生産を伸ばそうと経営努力すると起きます。努力すればするほど硝酸態窒素残留しやすくなる現実があります。通常、野菜は目標とする健全な肥料設計に基づいて栽培計画を作り栽培します。三要素の肥料や野菜を美味しくするための微量要素も入れて栽培しています。
しかし、問題は大きなジレンマを抱えています。お天気などの自然環境は設計通りに発現してくれることは補償されません。光合成によって肥料をでんぷんに替え成長していく野菜が天候不順や長雨に遭遇すると全部使われるはずの肥料が使われないままに残ってしまうのです。
これが硝酸態窒素の残留となってしまいます。もちろんその結果は収穫量も期待したものにはならず、安全性も確保できなくなる。負の連鎖となっていく構図と言えます。たくさんの肥料で窒素量を多くすると、ホウレンソウの収量は増加しますが、多すぎると(25㎏/10a以上)かえって収量が減り、含まれる栄養分も低下するようになります。
美味しい野菜とジレンマ
窒素肥料は、植物が自らの組織を構成維持するために必要な要素であり、適切に与えることで作物の茎葉の成長を促進し、収量も向上することが期待できます。特に、生長の著しい生育初期には窒素が多く必要です。
窒素肥料の中でも硝酸態窒素は水に溶けやすく野菜類が直接吸収できるため、かなり速効性が高く、施用後2日で効果がみられるといわれます。ただし、水に流れてしまうので長期の効果は期待できません。
前述のように、硝酸態窒素やアンモニア態窒素を含む肥料はさまざまなものがあります。アンモニア態窒素のみを含む「硫酸アンモニウム」は施用後、土壌中のpHを下げる効果があります。窒素肥料はお天気が良く日射量が旺盛な時はどんどん消化していきます。
有機野菜でも安心できない
残留硝酸態窒素については、化学肥料、有機肥料に関わらず、肥料を与えすぎたり、天候不順で窒素が消化できずに収穫されると残留濃度が高まってしまいます。天候不順になると作物の生育は阻害されます。お天気は人の努力では自在になりません。最近は特に異常気象が多発し長雨も最近多くなっています。
生産者は意図的に窒素肥料だけを多く与えているのではありません。決められた栽培計画を基に標準的な野菜の施肥計画にのっとり栽培しています。阻害要素としては天候不順、土作りの問題や病害虫の問題などが考えられます。
太陽光が十分あれば日射量は肥料をでんぷんに替え成長を促進しますが、天候不順で日射量が低下すると消化されない肥料が残ることになるのです。その時の野菜は思い通りに成長してくれません。収穫量も減ります。
「有機野菜だから大丈夫」というわけではないので注意が必要です。極端に葉色が濃すぎるものは残留が多い可能性が高いです。明るい緑のものを選びましょう。
CN率を高める 窒素濃度は低下
C/N比(炭素率)を高めることで硝酸態窒素の残留が回避できるという目標でこの問題に取り組んでいる事例もあります。この方法を考えてみたいと思います。高品質で食味がよい作物を栽培するポイントの1つが、圃場の準備段階で土作りに力を入れることです。
この時期に堆肥などの有機質肥料を投入することで土壌中の微生物の活動を促すことができ、これは土作りをするうえで非常に重要なプロセスといえるでしょう。堆肥などの有機質肥料には、土壌改良効果と比較的長期間必要となる肥料効果がありますが、C/N比によってその現れ方が異なります。
そのため、有機質肥料を使うときには、C/N比によって異なる、土壌改良効果と肥料効果の現れ方を考慮する必要があります。また、本当の土作りには時間が掛かります。土壌微生物の量と多様性を高めることで多くの病気による生育障害などが克服できます。
長期的視点に立った、本格的な土作りによって病気になりにくく、残留窒素の問題も解決できる道が開けます。そして作物の美味しさも格段に向上できます。
土作りなどで改善できる
土作り長年かけて続けることで窒素残留の少ない土壌が問題解決に役立つといいます。多様性のあるバランスの良い土壌細菌旺盛な土壌が問題を解決してくれます。
有機物で地力を維持・回復させるために堆肥や繊維の多い有機物を投入し土壌微生物の数と多様性を増やしバランスの良い土壌微生物の活躍の場を提供することにあります。まさに、人間の免疫力を上げるために腸内細菌を増やしその多様性のバランスの取れた腸内フローラを獲得するのに似ています。
有機物の投入による土壌微生物の活性化は、地力窒素の増加、病害の抑制、透水性・保肥力の改善などさまざまな効果をもたらします。また、有機物を連用することは、養分保持力に優れた腐植を形成するなど、土壌自体が持つ地力の維持・回復につながります。
土作りは最終的には、土壌の構造にも変化をもたらし、理想的な団粒構造を獲得することにあります。団粒構造の土は水分を適度に保ち、通気性が良く、肥料の流亡を防ぎ、作物が必要な時に必要な分の水分と肥料分を得ることが出来るようになります。