◆◆ ばっちゃん物語 第24話 ≪ばっちゃん子供頃のお話し≫ ◆◆
■明日の穏やかさをやくそくする夕焼けに包まれる
権太は思い出していました。 自分が船戸の渕でおぼれた時のことを。
源吾に助けだされて川の土手に寝かされて息を吹き返したとき
源吾はただ黙って震えている自分を抱きかかえて 家まで連れて行き介抱してくれこと。
けっして近くない家まで、源吾に抱えられた権太は
今まで感じたことのない安心感に包まれていました。
囲炉裏に火を焚いて側に寝かせて布団をかけてくれたこと。
「いいか、権太今日のことは誰にも云わずに黙っておげ」
「お前の父ちゃんには何も知らせないでいい
俺は黙っているがら」
と言い諭しました。
権太の親父はこの事を知ったら怒り狂って 権太を殴り倒しかねないこと。
権太の親父は酒を飲むと短気で乱暴な性格なの
をよく知っていたのです。
そして、しばらくすると自分は帰る代わりに 佐助を探してよこしてくれたのでした。
驚くほどに他人のやさしさを生まれて初めて 肌で感じ取ったのです。
権太の家は屋根の葺き師(職人)。農家ではいので
ある意味孤立していました。
村は農家中心にまわっています。
多数派の農家では感じとれない
農家から蔑まれているかのような疎外感が あったことは確かなのです。
大工、左官、鍛冶屋、他の職人そんな家の子だけが
権太についているのです。
権太はかまくらの中で子分たちに、あの雪の滑り台で稼いだ
餅やスルメをあぶってふるまっていました。
あれだけ泣いて腫れ上がった権太の目は今は
とても澄んで見えます。
かまくらの中からは餅やスルメの香りとともに みんな明るい笑い声がいつまでも聞こえていました。
権太の持ちこんだ七輪を囲んで、楽しい時間が 寒さを忘れて夕方まで続くのでした。
西の空は、この時期にはめずらしく夕焼け空が見えて
あしたの穏やかな朝を約束しているような鮮やかな色を見せていました。