米国のさくらんぼ生産の事情
米国産サクランボには酸っぱい品種(tart)と、甘い品種(sweet)があります。さくらんぼの分類からすると、酸っぱい品種(tart)はセイヨウスミザクラ(酸果オウトウ)であり、甘い品種(sweet)はセイヨウミザクラ(甘果オウトウ)に分類されます。
甘いサクランボ品種のビング、ランバート、レーニアの三つの品種は、米国北西部で生産される甘い生食用チェリーの95%以上を占めています(ワシントン州農務局)。日本の品種、佐藤錦などと比べると粒の大きさ、味の濃さ、日持ちの良さが際立ちます。特に日持ちの良さは、日本の品種の3~5倍の印象があります。
米国のさくらんぼ生産の中心は西海岸のカルフォルニア州、オレゴン州、ワシントン州の3州です。アメリカンチェリー産地として知られる生産量1位のレーニア種の産地ワシントン州が知名度では群を抜いています。
そして生産量第2位の産地で一番早く5月から収穫が始まるカルフォルニア州があります。そしてワシントン州とカルフォルニア州に挟まれたオレゴン州です。コロンビア川の流域が主なサクランボの産地で、州都はコロンビア川下流のポートランドになります。
ちなみに日本のさくらんぼ生産量は約16000トン、生産量3位のオレゴン州(32100トン)のほぼ半分以下の量(2022年)にすぎません。山形の生産量は12400トンの3倍近い水準です。
最大産地の西海岸3州から
余談になりますが、西海岸のロケーションをわかり易く、メジヤーリーグの本拠地で説明すると、あのイチローさんの所属したシアトルマリナーズの本拠地はワシントン州の州都シアトルにあり、あのスターバックスコーヒーの発祥の地です。
オレゴン州には球団はありませんが、カルフォルニア州には複数球団あります。さて、何チームあるでしょうか。
今では有名になった大谷さんが最初に居たロサンゼルスエンゼルスと移籍先のドジャース、ロサンゼルスにはその2球団あります。ダルビッシュさんがいるサンディエゴパドレス、サンディエゴはメキシコ国境に近い町で、カルフォルニア州の南部3球団です。
カルフォルニア州北部には2球団あり、サンフランシスコにあるジャイアンツ。もう一つあります。オークランドアスレチクス。カリフォルニアには合計5球団がひしめきます。ちなみに2028年からアスレチクスは本拠地をオークランドからネバダ州ラスベガスに移転するということです。
さて、米国農務省によると、ワシントン州は甘い品種(甘果オウトウ)の生産では群を抜いており、全米2位のカリフォルニア州の2倍以上、3位のオレゴン州の4倍以上を生産しています。
米国サクランボの種類と特徴
アメリカンチェリーの代表品種である赤色の濃いビングは1875年に開発されました。ビングは国産のさくらんぼと比べると実が大きくて硬い、果肉まで赤い、甘みも酸味も強いという特徴があります。
日本では明治初期に海外品種の試験的な栽培が行われ、これが国産さくらんぼの始まりとなっています。例えば、佐藤錦はナポレオンというヨーロッパ各地で古くから作られてきた品種が元になっており、それぞれ独自の品種改良を重ねた結果、国産のさくらんぼとして枝分かれしました。
日本のさくらんぼはアメリカンチェリーには明確な差異が出来ました。ただし、レーニア種のように国産のさくらんぼに近い見た目や味のアメリカンチェリーもあります。レーニア・チェリーは、外皮は黄色と赤のグラデーションで、実は大きくてしっかりしており、とても甘みの強い品種です。
米国さくらんぼレーニアの開発
レーニア種は、米国農務省で品種改良を手掛けていたハロルド・W・フォーグル博士が、ワシントン州東部のプロッサーにあるワシントン州立大学のリサーチ・ステーションで、ビング・チェリー(Bing)とヴァン・チェリー(Van)を交配させ、1952年に開発した品種です。
ワシントン州立大学によると、ビング・チェリーはオレゴン州ミルウォーキー、ヴァン・チェリーはカナダのブリティッシュ・コロンビア州サマーランドのサマーランド研究所で開発された品種で、フォーグル博士はチェリーのシーズンを延長させるためにビング・チェリーの新しい品種を作ろうとしていたところ、このレーニア・チェリーができあがりました。1980年代まではビング・チェリーの受粉のために栽培されていましたが、今では世界中で人気の品種となっています。
さくらんぼ レーニア種の名前はレーニア・チェリーの名前はもちろん、ワシントン州のシンボル的存在のマウント・レーニアにちなんでいます。
標高14400フィート(4389m)のマウント・レーニアは、アメリカで5番目に古いマウント・レーニア国立公園の中心にあります。カナダのブリティッシュ・コロンビア南部からカリフォルニア州北部まで連なるカスケード山脈の最高峰でもあります。ワシントン州の象徴的マウンテンです。
米国サクランボの歴史と発展
アメリカにおけるサクランボ(オウトウ)の栽培は、18世紀初頭にイギリス人やオランダ人、フランス人移民によってカリフォルニアやオレゴンで始まりました。熱心な研究者による台木や新品種の育種栽培が行われ、19世紀には著しく発展しました。
サクランボは有史以前から中東地域等に自生していたとされ、トルコ(生産量1位)やイラン(生産量3位)など現在でも主要な産地となっています。米国へは17世紀ごろにイギリス人が持ち込んだのが始まりとされます。
米国のサクランボ生産は現在ではカリフォルニア、オレゴン、ワシントン州など西海岸で生産され、生産量は世界2位となっています。日本人には高級品の印象があるサクランボですが、米国の生産地では日常的な果物として親しまれています。
サクランボは、有史以前から西アジアで野生化し、黒海沿岸からヨーロッパを経て17世紀にアメリカ大陸に渡りました。日本では、明治5年(1872年)にアメリカ人の北海道開拓総顧問ケプロン氏によって導入され、明治7~8年頃には政府がアメリカやヨーロッパから多数の品種を導入して栽培が開始されました。アメリカから導入された品種をベースに、日本では独自の品種開発が行われています。
米国産のサクランボは「アメリカンチェリー」として日本産のものは「さくらんぼ」として、あたかも別の果物の様に印象づいているのが現状といえるでしょう。
3州のサクランボ 品種と特徴
■カリフォルニアのサクランボ品種
レーニア種以外は見た目に大きな差が無いため、店頭では単にアメリカンチェリーと表記されますが、実は多くの品種が流通しています。チェリーは収穫時期が短く、長期保存もできないため収穫時期が違う品種を植えることで、なるべく長く供給できるようにしています。ここではカリフォルニアチェリーとワシントンチェリーに分け、出荷時期の順に並べて紹介します。
ブルックス種はレーニアとビングを掛け合わせた交配種です。カリフォルニア大学で開発され、カリフォルニアの暑さに耐性があります。見た目はビングに似ていますが、より早い収穫が可能で、シーズンの初めに出回る品種です。
コーラル種この品種が生まれた経緯は諸説あり、正確には分かっていませんが、ビングよりも暑さに耐性があり、カリフォルニアの土地に適していることから生産量は増え続け、長年の王者ビングに代わってカリフォルニアでの生産量1位となりました。見た目や味はビングと変りませんが、より早く熟すので早い時期に出回る品種です。
■ワシントン州、オレゴン州のサクランボ品種
シェラン種
1971年にワシントン大学で開発された品種で、ワシントン州では最も早く出回ります。ビングよりやや明るい色で、ハート型です。
ビング種
大粒で果肉まで赤く、強い甘みと酸味の濃厚な味、しっかりした歯ごたえ。アメリカンチェリーと言えばビング、と言えるほど代表的な品種です。1875年にオレゴン州で開発された歴史ある品種で、広く生産されています。ビングは世界中で生産されている品種ですが、中でもワシントン州のビングは最高級品として有名です。
レーニア種
淡黄色の果肉、酸味が薄く甘みの強い味、柔らかな歯ごたえとレーニアは国産のさくらんぼによく似た性質を持っています。果肉の柔らかさから生育や輸送が難しく、やや高価ですが、日本人の味覚にあっているのか、日本の品種に似て味が一段濃いからか一度食べると多くの人がやみつきになります。
米国サクランボの出回り期間
米国産サクランボの収穫期は例年、5月~8月が収穫期になります。カルフォルニア州にはじまり、オレゴン州、ワシントン州と続いて収穫されていきます。
青い部分はカリフォルニア州産、赤い部分はワシントン州産です。日本の輸入サクランボのうち96%はアメリカから輸入されていますので、旬は夏場です。さらにアメリカ産のうち大半がカリフォルニア・オレゴン・ワシントンの州で生産されているものです。
私たちが日本で食べているアメリカンチェリーはほとんどがアメリカ西海岸3州で生産されたものになります。 カリフォルニアのさくらんぼは例年であれば、シーズン最初の果実は4月下旬に熟し、6月中旬には出荷が終了することになり、収穫と同じくオレゴン州、ワシントン州と続きます。
販売される期間は6月半ばから7月末の6~7週間と短め。初物の入荷はソーシャルメディアなどでも宣伝され、スーパーマーケットやファーマーズ・マーケットなどでも店頭で量り売り、または袋やパック入りで売られます。