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庄内柿の誕生の物語

 

庄内柿の誕生 庄内藩の開墾から


秋になると庄内地方のあちらこちらの家で色付き始める柿の実。甘く柔らかく、歯ごたえもしっかりした柿、子供からお年寄りまでみんなが大好きな『庄内柿』です。この『庄内柿』は明治18年、偶然に紛れ込んだ1本の柿の木から始まりました。

 

そして、この種のない不思議な柿の木の将来性を感じ取った元庄内藩士、酒井調良が苗木を育成し普及に励んだことが、今日の庄内の秋を代表する果物『庄内柿』を生み出したのです。高く澄んだ青い空を緩やかに流れる白い雲が、紅葉に色付き始めた金峰を見下ろす鶴岡の10月。山から吹いてくる風が涼しげに感じるころに『庄内柿』の収穫は始まります。

 

紅く熟した果実と緑色の葉っぱが果樹園を彩る風景は、これが庄内の秋だと言っても過言ではないでしょう。

 

種なし柿 庄内柿

調良は庄内柿を品種改良し、渋柿の渋抜き方法も開発


 

庄内柿は平核無柿という品種


庄内を代表する秋の果実「庄内柿」は、果実が甘く、適度の歯ごたえ、種がないのが特徴です。正式には『平核無柿(ひらたねなしかき)平らで種の無い柿、核とは種のこと)』と言います。

 

『平核無柿』は『渋柿』の王様と呼ばれ、数多くある品種の中で第3位(平成18年産、農林水産省調べ)の生産量を誇っているほど人気がある品種です。ちなみに第2位は平核無柿の変異種『刀根早生』です。

 

この『平核無柿(庄内柿)』は庄内藩士の酒井調良(さかいちょうりょう)によって栽培方法などが開発され、新潟の『八珍』や佐渡の『おけさ柿』などに名前を変えて全国へと広まっていきました。

 

では、その『庄内柿』はどのようにして生まれたのでしょうか。

 

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鶴岡公園にある酒井調良の胸像


 

庄内柿の生みの親 酒井調良


明治18年、鶴岡市鳥居町に住む鈴木重光は越後からきた行商人から何本かの柿の苗木を購入し、それを自宅の畑に植えました。『桃栗三年 柿八年』の言葉どおり、明治25年には植えた柿の木に初めて実がなりました。

 

ところが、そのなかに一本だけ、ほかのものとは形の違う実がなる柿の木がありました。その木からなった果実は形が偏平で、しかも種のないものでした。
「果たしてこの柿の実はどういうものだろうか」

 

鈴木重光はこの不思議な柿のことを、親しかった酒井調良に相談しました。当時、多くの果物の栽培を試していた調良はこの種のない柿に着目、自分の果樹園で苗木の育成を始めました。

 

庄内柿は渋柿、脱渋の方法まで開発した。

庄内柿は渋柿、調良は脱渋の方法まで開発


 

庄内柿は家老の息子が育て


酒井調良は嘉永元年(1848)、庄内藩家老酒井了明(のりあき)の次男として、鶴岡市鷹匠町(現在の若葉町)で生まれました。兄は戊辰戦争で活躍し、敵に「鬼玄蕃」と恐れられた酒井了恒(のりつね)。弟は鶴岡の書道発展の基礎を築いた書家の黒崎研堂(くろさきけんどう)。

 

こうした家系に生まれ育った調良は、兄と同じように若いときは庄内藩に仕え、戊辰戦争にも参加しています。戊辰戦争での庄内藩は新庄・秋田方面などでの戦いで不敗を誇ったものの、相次ぐ同盟藩の降伏などで次第に孤立し、最終的には降伏謝罪することになりました。そして時代の流れは庄内藩の武士たちに生き方の変化を求めました。

 

明治5年、25歳の調良は松ヶ岡開墾に参加します。これからの時代、養蚕・製糸業が新しく有望な産業になると考えていた調良は、開墾に汗を流し、屋敷内などに蚕のえさとなる桑を植えて養蚕に励みました。明治13年には私財を投じて製糸会社盛産社を興し、横浜から海外へ向けて生糸の輸出を始めました。その功績が認められ、明治21年には荘内蚕糸業組合長となりました。

 

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庄内柿の生みの親、酒井調良の像と庄内柿の記念樹


 

酒井調良が開発普及につとめる


調良はこうした松ヶ岡の活動とは別に果樹栽培にも目を向け、寒冷な気候でも適応できる果物としてリンゴを庄内地域で初めて栽培しました。また、砂丘地においてのウリ・スイカ・桃の栽培も追求し、庄内初の豚の飼育も試みました。

 

庄内柿の育成・普及に携わる前の調良は、武士の時代から新しい時代への移り変わりを敏感に感じ取って、様々な新しい挑戦を続けました。時代の先を見つめ、庄内での新しい産業の定着に努力を惜しみませんでした。こうした調良と不思議な柿の木の出会いはもしかしたら偶然ではなかったのかもしれません。


 

庄内柿を普及していた頃の酒井調良

庄内柿を普及していた頃の酒井調良


参考文献/「鶴岡市史 下巻」、「鶴岡百年の人物 上」鶴岡百年の人物刊行会ほか

 

▼庄内柿の収穫期 鶴岡市松ヶ岡開墾場あと近く

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