豊作までの長い道のり
さくらんぼの花が咲くと、受粉の条件が良ければその咲いた数だけさくらんぼの実がつきます。しかし全てが生育するわけではありません。サクランボの満開後、20日間でマッチの先のような小さな実が50%以上落果してしまいます。細かな育たない実は落ちて無くなってしまいます。これを生理落果といいます。
サクランボの生理落果の理由は、栄養のバランスが充分とれなかったり、栄養が実に行かなくなり落ちてしまうものもあります。サクランボの花の満開から20日間くらいで小さな実のうちに落ちてしまいます。
さくらんぼの樹、自体が自分でどれだけ実をつけたらいいかを決めて、それ以上の実を落果させてしまうことです。自身の樹を守るための働きで、これはどんな作物でも共通していることのようですね。このように、サクランボの豊作となる条件には、お天気も含めたくさんの要素が微妙に絡みあっています。そして、その年の作柄を決定づける条件は大きく分けると3つの条件があるようです。
その1 遅霜に遭遇しなかったか
豊作を妨げる外的要因でいちばん大きいのは、お天気ですね。サクランボは4月の上旬頃になると蕾がかなり膨らんできます。この蕾が肥大していく4月の上旬から満開直前までが、サクランボにとっての温度に敏感で弱い時期なのです。
この時期に強い霜が降りるとさくらんぼの花芽が凍って枯れてしまいます。こうなると実は着きません。この霜害は通常その樹の全部ダメになることは少なく地面近い枝(低い枝)の一部もしくは霜が強ければ全部となるわけです。しかし上部の枝は全く被害がなかったり、一部だけというよう事が多いようです。
まれに、その樹が全滅するような強い霜の害を受けることもあるわけですが、このようなところは霜害の常習地帯といえなくもありません。それは霜というのはその地形によって霜の通り道のような霜害がでやすい所、でにくい所があるといいます。
ですから、常習地帯と認識しているところでは、防霜ファンといって霜が降りそうな時に風を回して霜を防ぐ設備をしたりしています。中には最新の設備というので温風がでる防霜ファンを設備しているというところまであるのです。
また、こういった設備のない所では、注意深く「霜警報」などの天気予報を見守りながら煙がでやすい焚火をして地表を霜から守るなど、出来る限りの対応策をしてサクランボを必死に守っているのが現状です。
サクランボの蕾が霜に弱い時期は蕾の膨らむ4月上旬頃から満開の前までですが、一番弱い時期は4月上旬、中旬頃でしょうか。開花に近くなってくる頃、大きくなった蕾がほころび出す頃まで注意が必要です。開花が始まれば相当強い霜でない限り心配はないと思われます。
その2 満開時のお天気は
「満開時の気温が15℃以上」ミツバチ、マメコバチをはじめとする昆虫たちが活発に活動してくれること。ミツバチ、マメコバチなどの昆虫が活発に蜜を集める条件が揃うと授粉が効率よく運ばれ豊作になり易い。冷たい雨、冷たい強風の日は蜂たちも活動できませんから受粉の効率が急激に下がります。
マメコバチは12℃以上で働きだすといわれますが、小さな体なので風があると活動は低下してしまうようです。ミツバチは通常15℃になると蜜を求めて飛び回ると云われていますから最低15℃以上の気温と雨の降らないことが必要条件となります。
このような理由から、サクランボは同じ樹で受粉できないためミツバチなどのように樹から樹へ渡って受粉をたすける活動範囲の広い昆虫でないと本当に交配を助けることにはなりません。受粉の時期なるとJAなどでは毛バタキで人口受粉を呼びかけますが、ある温度になると休まず広範囲に働くミツバチなどに比べ人の行動範囲は限られた一部の力に過ぎないことは明白です。
そして忘れてならないのがこの授粉時のサクランボ畑には「土壌中の水分がたっぷりある」ことが大変大事な要素です。それはサクランボの雌しべは乾燥に弱く、乾燥し過ぎると受粉効率が低下するということがあるからです。この時期はもともと春の乾燥しやすい時期でもあるのでさくらんぼ畑に散水して地面が乾かないよう生産者は心がけているのです。
その3 受粉樹と佐藤錦の相性は
佐藤錦という1つの品種だけでは実がならないということがあります。佐藤錦と他の品種が受粉することが実を付ける条件です。そのために、受粉樹の相性はどうかということがあります。これは外的要因というより生産者が判断する内的要因といえるでしょう。
さくらんぼの受粉にはミツバチなどの昆虫が活躍が欠かせないという理由にはもう一つの大事な問題があります。サクランボが受粉、交配して実を成らせるには、佐藤錦だけでは交配しないという植物でいう自家不和合性というサクランボ特有の問題があります。
全体の1割から2割の別の品種、受粉樹が欠かせないのです。昔は「ナポレオン」という品種が佐藤錦には相性が良く、ナポレオン自体も高く売れましたからよかったのですが、近年は生食用でのナポレオンの需要が無くなって、急激に少なくなってきました。
そのためにナポレオンの樹は切られ別の品種に代わってきました。最近は、早生種の「紅さやか」「紅秀峰」などの高品質の品種に人気が集まっています。そして、そのうえで「ナポレオン」や「紅さやか」「高砂」「紅秀峰」など他の品種の開花の時期が佐藤錦と重なることも重要なのです。この事も毎年お天気の条件でそれぞれの花の咲き方が違っている現実を難しくしている問題です。
今まで実績のあるナポレオンがあることで全体に好適性になっていたと考えると、新しい組み合わせについての実績はまだ評価できていない状態なのです。
▼さくらんぼ剪定から収穫まで
佐藤錦 作柄決める3つの条件 まとめ
いずれにしても、サクランボの満開時には春らしい穏やかな暖かいお天気が続き、それでいて乾燥し過ぎないような時々雨が降るお天気が望ましい条件になります。しかしこれはあまりに勝手な言い分でもあります。しかし「今年はたくさん着果した!」これって普通は喜ばしことに思うのですが。さくらんぼ農家にとっては、微妙って感じです。そんなに嬉しいものではないというのです。
あまりに着果が多いとそれは摘果(おろのぎ)作業が大変になってしまうからです。大粒で輝く佐藤錦などのサクランボに到達するまでは、いくつかの自然条件と地道な作業を繰り返し、そこを乗り越えてはじめて収穫されることが「豊作」への道です。
この3つの条件が達成されて、これによって沢山の実が着いた場合。これは何より、喜ばしいことなのですが。これイコール豊作とは呼べないのです。豊作になる権利をあたえられた。と考えるべきでしょうか。
このような年は、実が成り過ぎの傾向になっています。決して丁度良い実の数ではないからです。この事で摘果作業という「実を大きくするための作業」がはじまることになってきます。この大きな仕事を終えてはじめて「豊作」とういゴールが見えてくるのです。