日本ぶどう品種改良の変遷
日本のブドウの普及は、多くの品種が海外 から導入・試作された明治時代から本格的に始まりました。米国や欧州からの品種が持ち込まれました。しかし、降雨が多い日本では雨の少ない所で栽培される欧州ブドウの栽培は困難でした。
明治時代に普及に成功した品種の多くは栽培が容易な「キャンベルアー リー」「デラウェア」「ナイアガラ」「コンコード」 などの米国ブドウでした。
その後、明治末から昭和にかけて、多くの民間育種家によって欧州ブドウの果実の品質の良さと米国ブドウの栽培性しやすさを兼ね備えた欧米の雑種品種を育成することを目標とした育種が精力的に行われることになります。米国品種の栽培のしやすさを保持しながら、欧州品種の大粒、美味しさ、食べやすさなどの長所を引き出したいと考えたのです。
▼山形のブドウ栽培 シャインマスカットなどの品種
大粒ブドウ 巨峰の誕生
「マスカットベリーA」や、「巨峰」はその代表的な品種になります。「巨峰」は、大粒枝変わり品種同士 の交雑によるもので、「巨峰」の両親は米国ブドウ 「キャンベルアーリー」の四倍体大粒枝変わり品種 「石原早生」(いしはらわせ)と欧州ブドウ「ロザキ」の四倍体大粒枝変わり品種「センテニアル」なのです。
4倍体というのは1個の細胞の中にある染色体の数は生物ごとに決まっており、ジャガイモの栽培品種の主なものは48本の染色体を持つ四倍体と24本の染色体を持つ二倍体です。 二倍体は12種類の染色体を2本ずつ持っていますが、四倍体は4本ずつ持っており、もともと二倍体同士が交雑した際、何らかの異常により生じたと考えられています。
巨峰 米国と欧州ブドウの中間
「巨峰」は米国ブドウの塊状と欧州ブドウの 崩壊性の中間の肉質を持つといわれます。崩壊性とは ブドウの肉質の特徴の1つで、よく噛み切れるる硬めの肉質のこと。好みによりますが、一般的に崩壊性の方が肉質が良いといわれています。
塊状とは ブドウの肉質の特徴の1つで、なかなか噛み切れない肉質のこと。プルんとした感じ。巨峰などは崩壊性と塊状の中間のことになります。耐病性は「デラウェア」などに は劣るが、通常の薬剤散布により露地栽培が可能である。
その後、「巨峰」を交配親とした育種が盛んに行われた結果「ピオーネ」、「藤稔」(ふじみのり)など多くの四倍体欧米雑種が育成され、日本独自の「巨峰群」と呼ばれる大粒の品種の系統が生まれました。
そして、その食味を改良して欧州ブドウに近づけようと、米国ブドウと欧州ブドウが交配され、「ピオーネ」などが生まれましたが、ねらい通りの欧州ぶどうの崩壊生の果肉にはならなかったのです。「巨峰」や「ピオーネ」もフォクシー香で、肉質も欧州ブドウのような噛み切りやすさは得られませんでした。
米国ブドウの特徴とは
フォクシー香は米国ブドウのラブルスカ種に属するぶどう、コンコードやデラウェア、ナイアガラ、キャンベル・アーリーなどがあります。フォクシー香はワイン専門家や海外産ワイン通には毛嫌いされることが多いようです。
雨の多い日本で広く栽培されてきたのは栽培しやすい米国ブドウの「デラウェア」、「キャンベルアーリー」などです。これらの米国ブドウは病害や裂果に強く、明治以来、日本で栽培される主流でした。果粒が大きくなく、噛み切りにくい肉質で、米国ブドウの特徴であるフォクシー香がありるのが共通の特徴です。
これらの米国ブドウは病害や裂果に強く、明治以来、日本で栽培される主流でした。果粒が大きくなく、噛み切りにくい肉質で、米国ブドウの特徴であるフォクシー香があります。
その食味を改良して欧州ブドウに近づけようと、米国ブドウと欧州ブドウが交配され、「巨峰」、「ピオーネ」などが生まれましたが、「巨峰」や「ピオーネ」もフォクシー香で、肉質も欧州ブドウのような噛み切りやすさは得られませんでした。欧州ブドウと米国ブドウを交配しても、子の特性はその中間のものとなり、一般に欧州ブドウの味にはなりません
ついに欧州ブドウの特徴が
農研機構の果樹研究所では、欧州ブドウと米国ブドウの交配を長い間粘り強く続け、肉質が「マスカットオブアレキサンドリア」に近く、やや大粒の「安芸津21号」を選抜したのです。
この系統はマスカットとフォクシーの香りが混ざった香りで、良い香りではありませんでしたが、後代では分離してマスカット香の子を得ることができます。そこで、この系統に、できるだけ大粒の様々な欧州ブドウを交配したのです。
その結果、それらの子の中から、マスカットの香りがあり、「マスカットオブアレキサンドリア」と同様の噛み切りやすくて硬い肉質の大粒・黄緑色ブドウを選抜し、「シャインマスカット」として発表しました。
容易に種なし栽培ができ、果皮が薄くて渋みがないため、皮ごと食べられる特性があります。栽培方法も比較的日本の気候に適合しています。裂果も発生せず、べと病や晩腐病などの耐病性も一定程度強く、露地あるいは簡易なビニール被覆での栽培が可能で、栽培が容易です。
アレキサンドリアの魅力が
紀元前からの品種で最高級ブドウといわれる「マスカット オブ アレキサンドリア」がもっている独特の香り。をブドウ用語で「マスカット香」といいます。ブドウの『マスカット』の風味は広く知られており、合成された香料としてのマスカット味の菓子やアイスなどの製品も広く販売されて馴染みもあります。
緑色ブドウの代表のようにも思われているかもしれません。しかしながら、マスカットの香りのするブドウは、日本のブドウ栽培面積のおよそ2%程度しか栽培されていません。
マスカット香は欧州ブドウに由来し、欧州ブドウはカスピ海や黒海の近辺が原産地で、降雨の少ない地中海地方に広がりました。この気候に適応しているため、夏に降雨があると、病害が多く発生し、裂果や生理障害も発生しやすいため、雨の多い日本での栽培は難しく、あまり栽培できませんでした。
高価で販売される幻のブドウ「マスカットオブアレキサンドリア」は栽培が難しく、岡山県のガラス室などの施設の中で希少なブドウとして栽培されてきました。
シャインマスカット悲願30年
最近漸くスーパーなどでも目にする様になってきましたが、2006年に登録された品種です。容易に種なし栽培ができ、果皮が薄くて渋みがないため、皮ごと食べられる特性があります。皮ごと食べられるシャインマスカットの魅力が圧倒して人気が高まっています。
「シャインマスカット」が消費者に受け入れられた理由の一つとして、皮ごと食べられる手軽さがあります。これまで日本で普及した米国ブドウや欧米雑種 ブドウは果皮が厚く、口の中に入れると果皮と果肉 が分離するため、ブドウを皮ごと食べる習慣は日本 ではほとんどなかった特徴です。また、欧州ブドウのいくつ かの品種は皮ごと食べられるが、果皮が薄くて裂果 しやすいため日本では普及しなかったこともあります。
「シャイン マスカット」の登場により、皮ごと食べられる上に 裂果しにくいブドウの市場流通量が急速に伸びたこ とから、日本の消費者や市場の「皮ごと食べられる ブドウ」に対するニーズはさらに増していくものと 考えられます。
研究を重ねること30数年。ようやくシャインマスカットによって欧州ブドウの長所である高品質の果肉が獲得できることになったのです。
シャインマスカット由来 まとめ
農研機構では品種改良の研究を続けて30年以上、ついに崩壊生という欧州ブドウの美味しい果肉の特性が実現できることになったのです。それはマスカット香のある皮ごと食べれて、大粒ブドウであり、しかも種なしのブドウです。
それ以外に、保存性についても高い潜在性が認められてきました。シャインマスカットは米国ブドウ、欧州ブドウそして日本の研究技術が融合した世界に今までにない独自タイプの日本ブドウと言えるのではないでしょうか。その人気は年々高まっています。
※崩壊性とは、 ブドウの肉質の特徴の1つで、よく噛み切れるる硬めの肉質のこと。好みによりますが、一般的に崩壊性の方が肉質が良いといわれます。その反対の中々嚙み切れない肉質をぶどう用語で塊状といいます。
参考文献
農研機構ほか
https://www.naro.go.jp/introduction/index.html