昼は猛暑で夜涼しい温度格差が
桃は温暖な気候を好む作物なので大産地では山形県がほぼ北限となります。ところが、この北限の桃が、その完成度の高さで評判になっており、品質、生産量ともに全国でも5本の指に数えられます。
北限の桃だけにゆっくり、じっくり育つことが「果肉の締まり、ツルっとしたきめ細かさ」に大きな影響しているとみられます。山形の桃の畑に行くと、ふわっと甘くかぐわしい桃の匂いが鼻をくすぐる。まさに天然のアロマセラピーそのものです。
そしてまわりを見渡すと、たわわに育った実の重みで、ほとんどの枝が地に着きそうに垂れ下がっています。「実がなっても枝が立つほど元気だと、養分が枝にいってしまっていること、枝が下がるのがおいしい証拠」と桃づくり達人、生産者の中野さんが説明してくれます。
温度格差が生み出す蓄積養分
ふつう果樹は光合成により、糖類を作り蓄えます。同時に、この糖類は、生理的活動である呼吸作用で消費されてしまいます。そこで極論すれば、甘くするためには夜の呼吸が少なければ少ないほど糖類の消費が少なく蓄積が多く残るわけです。その条件は夜間の気温の低さが大きくかかわってきます。
かつて、最高気温日本一の記録保持を続けていた猛暑の地、山形ですが、桃の産地となっている村山地方では夏でもエアコンがいらないほどに夜は涼しく、植物の呼吸は抑制されることになります。昼夜の温度格差が生み出す蓄積養分が濃厚な味の源になっています。
昼の山形猛暑と夜の涼しさ
その結果、昼が暑く光合成が旺盛で、夜涼しく呼吸が少ないことが果実の糖度を上げるしくみとなります。北限の産地のこの自然の恵みが美味しい桃づくりには欠かせない大事な地の利として生かされています。
山形の白桃は、期間が長く、8月上旬から10月上旬頃まで収穫します。7月のあまとう、あかつき、川中島白桃、だて白桃、西王母など、かたや黄桃は光黄、黄金桃、滝の沢ゴールド、きららのきわみ、光月、西尾ゴールドと10月まで続きます。
山形桃の美味しさは北限の猛暑
桃は真夏のくだもの。「猛暑になるほど美味しくなる」といわれています。この本当の意味は昼、猛暑で、夜が低温になり温度格差が大きくなると果汁たっぷりで糖度が増すという意味になります。
北限の桃は夜の涼しさに呼吸も静かにゆっくり休んで糖度を蓄えています。「果報は寝て待て」まさに山形の桃、そのものを言い当てているよう。甘い香りとたっぷりの果汁が口の中に広がって、えもいわれぬ気分。ももの実は約90パーセントが水分だというが、その水分の全部がおいしい。果肉のほどよい固さとなめらかさ。
フルーツソースや生クリームで飾り立てたどんなに立派なデザートでも、この味には勝てそうもない。そして、自然を相手にこれだけの味を完成させる技術もすごい。「これが北限の桃です」と、作り手は誇らしげだ。
▼川中島白桃の収穫 東根市から