温室さくらんぼ栽培メカニズム
雪国山形の2月上旬は1年でいちばん寒い時期で積雪のいちばん多い時期なので産地の村山盆地の最低気温は-3℃から-5℃程になることも珍しくありません。積雪は多ところで1メートル、少ない平野部でも50センチ以上です。
前年の秋から12月中旬頃まで寒い外気で休眠(さくらんぼの樹の活動を停止した状態)に入ったサクランボの樹は12月下旬には温室のビニールを被覆させて暖房を入れます。時には雪が積もったままビニールを被覆して暖房を入れるのです。温室内の雪は暖房でしだいに消えてなくなることになるのですが。このギリギリまで降雪を待ってこの作業を行います。
この暖かい温度によって、秋に落葉して休眠していたサクランボの樹は目を覚まして「春が来た!」と錯覚。花を咲かせるためにサクランボの樹として春の活動を再開することになります。
花の白さ引立つ温室で
そしてついに、2月にはサクランボの花が満開になってミツバチが飛び回り、雪の中のお花見をすることが出来るようになるのです。何と神秘的な美しさのさくらんぼの姿が満開になります。
雪に埋まりそうな温室の中は別世界の春の果樹園、サクランボの白い花が満開になっています。白い花をようく見ると花の周りには蜜蜂が休みなく飛び廻っています。
もう、温室中がサクランボの甘い香りに包まれます。サクランボの真白い花びらの中に雄しべが黄色ですから花全体は白か淡いクリーム色に見えます。とても神秘的で妖艶な花を見せてくれるのです。そして、温室の中は百花繚乱の甘い香りの春なのに外は厳寒の山形の冬です。この驚きの対照の白の世界をここでどれだけお伝えできるでしょうか。
休眠と覚醒のメカニズム
サクランボの樹は一定期間を低温にさらして休眠を取らないと開花、結実にならない訳です。最低でも12月中旬くらいまで自然の中で低温に置かないといけません。サクランボは一定の休眠期間を取らないと樹は開花して実を着けることはできません。この栽培方法を使って早生種の紅さやかで3月下旬、佐藤錦は4月上旬になると収穫が出来るようになります。
つまり、これ以上は早くさくらんぼを正常に結実させることは現状ではできないのです。それだけに、サクランボの習性、特性、植物生理を研究し尽くしたギリギリの栽培方法でもあり肥培管理、温度管理などの高い栽培技術が求められるのはもちろんです。
また、ごく一部の栽培方法として移動できるポットにさくらんぼを栽培して強制的に冷蔵庫で冷やして休眠期間を作る方法もありますが、とても現実的な栽培方法ではないようです。本来は4月下旬に花が満開になり、6月下旬から7月中旬に収穫するさくらんぼを秋から冬に落葉してから寒さで休眠する習性を利用した栽培方法です。本来の収穫期より早く4月から5月に収穫される山形の温室さくらんぼはこんな方法で栽培されているのです。
寒さで葉を落とし休眠する
落葉果樹のさくらんぼは秋に花芽をつけたまま落葉して、温度がさらに低くなると休眠します。積雪の中、冬を越して、春に一定の気温に達するまで休眠状態を保つと春には花が咲き受粉して果実をつけることになるのです。これが通常の状態のサクランボの樹ですね。山形サクランボの促成栽培、温室さくらんぼ生産者はこのサクランボの休眠の原理を利用して栽培する方法です。
11月12月に一定の期間自然の寒さを経験させ、雪が積もるとサクランボが植えられている裸の温室にビニールを被覆させて暖房器で加温して春の環境を作り出すのです。
休眠(さくらんぼの樹の活動を停止した状態)という一定の期間低温を経験したさくらんぼの樹は冬を越したと勘違いして活動を再開します。暖房で気温が上げられると春が来たと勘違いして一斉に芽を膨らまし春の準備を始めるわけです。
温室さくらんぼは、冬になると休眠し、春になると覚醒するという落葉樹の原理を使って、この習性を応用したさくらんぼの促成栽培です。
母の日のギフトで人気商品
毎年、大型連休が終わった5月の第2日曜日は母の日です。この頃に母の日ギフトとして利用される商品にサクランボ、佐藤錦があります。前項でお伝えしたように、この頃に収穫されるさくらんぼは普通の栽培方法では到底この時期には出来ません。
この栽培方法は雪の重さにも耐えられる温室を利用し、暖房を効かせた暖かい加温温室でおこなう促成栽培された温室育ちのさくらんぼなのです。
さくらんぼの実の成り方は人工的に温度管理された促成栽培でも生育はとてもバラツキが大きくなりがちです。やはり、外の自然の条件に影響されます。温度以上に日射量は人為的な管理は出来ないですから加温した温室といえども完全に収穫時期はコントロールできないのです。
早いさくらんぼですと早生種の紅さやかなどは3月中旬くらいから収穫が始まります。もちろん主力は佐藤錦になるので4月になると出はじめます。
もちろん、加温した温室ですので温度の調整によっても収穫時期の調節はある程度、可能ですから生産者はいちばんの需要期の相場を予想してそこに照準を合わせて栽培しています。
需要期は母の日 父の日ギフト
やはり、温室さくらんぼの最大の需要期は母の日です。ここに収穫がピークになるように栽培を調節しています。しかし中々上手くいかないと生産者は教えてくれます。やっぱりお天気に影響されてしまうというのです。
自然の植物である限り温室でも天候の影響を大きくうけるのは必至。温室内の温度だけでは調整しきれない要因があるのです。日射量、気温、湿度が複雑に絡み合ってさくらんぼの生育に影響しているといっています。
また、父の日(6月第3日曜日)をねらって栽培する生産者もいます。この頃は温室さくらんぼが無くなるころで、しかも通常栽培のさくらんぼの収穫が始まる直前なので品薄になります。ここにもチャンスはあるようですが。中々収穫時期をコントロールすることはお天気を管理すると同じようなレベルの至難の業ということですね。
サク温室栽培 2月の満開 まとめ
落葉果樹の休眠と覚醒の習性を利用した自然のメカニズムにあった栽培方法を加温温室を利用して実現しました。早春に赤い実を魅力的に見せてくれます。2月にはサクランボの花が満開になってミツバチが飛び回り、雪の中のお花見をすることが出来るようになるのです。
何と神秘的な美しさのさくらんぼの花が温室中に満開になります。もう、温室中がサクランボの甘い香りに包まれます。サクランボの真白い花びらの中に雄しべが黄色ですから花全体は白か淡いクリーム色に見えます。とても神秘的で妖艶な姿を見せてくれるのです。
母の日さくらんぼのルビーのような可愛いギフトは厳寒期に雪の中で育った、冬育ちのサクランボなのです。雪がないと、寒い冬が来ないとさくらんぼは花が咲かないし、実が着きません。定期間寒さを経験させ休眠期間をとった後温室で春を演出、ミツバチも飛ばして春をさながらにつくりだして開花、受粉してさくらんぼの実が着くのです。
人間である生産者が作りだした演出力とサクランボとの共同作業と言えるでしょう。それにしても冬に育ったさくらんぼのギフトは価格も高いこともあってか一段と輝きが増してみえますね。
▼さくらんぼ剪定から収穫まで 山形県東根市 天童市から