雪に埋もれた温室に蜜蜂が飛ぶ
積雪がピークに達した2月の上旬頃になると雪に埋まったサクランボの温室から何やらにぎやかな声が聞こえてきます。この頃はまだ日が短いので、一日の作業を早めに切り上げて親類知人を集めてサクランボのお花見がはじまります。温室内はサクランボの白い花が満開になっています。
積雪がいちばん多くなるこの頃、外はマイナス3℃,積雪1メートルほど温室の中は15℃前後となっていますが体感は暖かい。凍りついた外とこの環境には大きなギャップがあります。
みごとに咲いた温室サクランボの花は、12月中旬に春になる設備を整えた温室。それは11月からの寒さを経験し12月には雪も積った事で落葉して休眠(さくらんぼの樹の活動を停止した状態)したサクランボの樹にビニールのなかった温室の骨組みに、ビニールを掛けて暖房を入れ始めたのです。
そうすると、サクランボの樹は暖房で温められた温度に反応。春が来たとばかりに花を咲かせようと準備を始めます。
満開に咲いたサクランボの花をようく見るとミツバチがぶんぶん飛び回り授粉を助け忙しくしています。きっとこの時期いちばん忙しいのは人ではなくミツバチではないだろうかと思うほど動きは活発。ミツバチがしっかり仕事してくれないと温室サクランボの豊作は望めません。
温室のお花見は豊作を呼び込む
今日は温室さくらんぼ生産者の安達さんの温室に15人ほどの同じ温室さくらんぼの生産者仲間や安達さんの知人、親類が参加して花見の宴があるということです。安達さんに聞くとそれには訳があって「温室で花見をするほどに豊作になるというジンクスがあって、今年も3回ほどサクランボの花見会する予定だ」ということなのです。
この頃満開のさくらんぼは5月上旬の母の日さくらんぼとしての大きな需要があってそこに収穫を集中させる予定の栽培方法をとっているということです。
温室のさくらんぼ栽培は温度管理ができるため出荷のピークをコントロールできる利点があります。温度や湿度の管理をしっかりして豊作を待ちわびるお客さまに高品質の山形さくらんぼ、佐藤錦を母の日ギフトとして届けたいと意気込みを話してくれます。
この雪の中のさくらんぼのお花見は、温室さくらんぼ栽培をする生産者が豊作を祈願する恒例の行事なんですね。そして同じ生産者仲間が今年のサクランボ栽培の状況を情報交換する大事なミーティングの場になっているのです。
花見宴会は盛上り夜は更けて
お花見の会があると知らずに取材させてもらっていましたが、奥さんがあわただしく宴席の準備をしています。私も参加の皆さんと一緒になってお手伝いに加わることになりました。まず、温室の中央にプラスチックのコンテナを20個ほど並べてテーブルにしつらえます。
春のお花見とは違い、「ブルーシートに場所取り」はなく外が積雪なのでみんなゴム長靴ですから、あらたに20個ほどのプラスチックコンテナを並べてみんなが座るイスと宴席のテーブルにします。
参加者も1人、2人と集まり始めました。開宴は午後5時ということで、ジュース、ビール、地酒などなどの飲み物を準備。料理の盛られた皿盛のオードブル、お寿司の大皿、夕食もこれなら充分と思えるボリューム。そして、うす暗くなってきた会場を照らし出す照明も準備されます。
もう皆さん、とても慣れていて誰が指示する訳でもなく準備は出来上っていくのです。やっぱりシーズン中に何度もお花見を経験していると慣れたものですで、これには初参加の私は驚かされました。
雪の温室さくらんぼ夜桜の宴
まだ温室が明るかった時に取材をさせてもらって、栽培方法などのお話しうかがいました。もちろんサクランボの満開の花を撮影させてもらってきましたが、準備をお手伝いするうちに暗くなってきました。そして、照明が点灯されると、またまた驚きの光景が浮かび上がるのです。
奥行きがあって奥の方は暗くなって照明の下に浮かび上がるサクランボの白い花だけがクローズアップされています。白い満開の花と暗い闇のコントラストが一段と神秘的な雰囲気を醸し出す。何と粋な風情だろう。初めて温室サクランボの夜桜に感動が収まりません。
宴会がはじまり、みんなは今年のお天気のこと、作柄のことなどが話題として盛り上っています。もう外が1mの積雪なことも忘れて、着てきた防寒用のコートを脱ぎはじめました。室温を観ると12℃となっています。もうミツバチも巣箱の中に納まって休んでいます。
日が暮れる頃から始まる雪の中のサクランボお花見は、夜まで続き妖艶なさくらんぼの白い花の下での夜桜もまた粋な風情が楽しめる。さあ私も参加させてもらおう。
温室さくらんぼのお花見 まとめ
雪の中のさくらんぼのお花見は温室さくらんぼ栽培をする生産者が豊作を祈願する恒例の行事なっているのです。そして同じ生産者仲間が今年のサクランボ栽培の状況を情報交換する大事なミーティングの場になっていることを知りました。
そして、その日の日中には温室さくらんぼを栽培するメンバーのサクランボの状態を皆さん自身で全員の温室を視察し、サクランボの状態を見学しながら検討会をしているのです。
これは栽培技術についての大切な勉強会が同日開催されていることになります。シーズン中に日を決めて「勉強会とお花見」を開催しているということです。
つまり、温室さくらんぼのお花見を何回も開催することは、仲間同士の視察勉強会を重ねることでそれぞれの園地の観察力が深まり、日ごろの疑問を解明できる機会にもなっているのです。
このような学習の方法は多くの場合栽培技術を高めることに貢献しているようです。
一般のサクランボ栽培よりも栽培技術がむずかしい温室栽培では、技術レベルを高めていかないと採算がとれないという悩みが着いて回るのです。だから皆が楽しみに集まって来るし、お互いに園地を互いに視察することを大切にしていることが判りました。ただ単なるお花見宴会ではないことが感じとれました。
▼さくらんぼ佐藤錦の生育 通常栽培の果樹園