りんごの剪定作業は1月に始める
冬の雪のある間に果樹園では一斉に剪定作業がはじまります。山形県では寒さに強い順にりんごはいちばん初めに洋なし、さくらんぼ、桃の順ということになります。
この順序にはちゃんと理由があります。果樹のタイプには2タイプあり、仁果類と核果類があります。仁果類にはりんご、梨が属します。果実の中心に芯があり小さい種が複数入っていっているタイプです。秋の果物に多いタイプです。
桃、スモモ、ウメ、アンズ、さくらんぼなどは大きな1個の種子の周りに果肉が着いているタイプ、基本的に種子は1個の形態です。特に、核果類と呼ばれます。夏の果物が多いようです。このような背景があり、寒さに強い仁果類のリンゴの剪定が厳寒期にはじめ、少しずつ冬が緩んで暖かくなる頃に核果類の剪定を始めます。仁果類の剪定が終ってから核果類の剪定は始められる訳です。
大まかに見ると、夏の果物は寒さに弱く、秋の果物は寒さに強いという果物の構造的、生理的にこの傾向があるので、この順番に剪定は当然ながら進められます。
目的は旨いりんごをつくる
剪定とは、春から秋にかけて、りんご作業をしやすくすることや、全体的な光の利用の効率化をすることになります。りんごの木の内側まで太陽の光が日陰なくとどくようにするためにするものと一般的にはいわれています。りんごの蕾の大きさや量などを見ながら、不要とされるりんごの木の枝を切り落とし、枝の配置を整えていくという、とても高度な栽培技術です。
そんな剪定作業の目的を考えてみるとき、どんな果物を最終的に目的としているかが剪定の時期に意識していないと目的を達成することが出来ないことになります。もちろん生産者は「美味しいりんごを限度いっぱいに沢山生産したい」と目的を持つことになるのは当然です。
そうすると、そのために収穫時にはこのようなりんごの樹の姿にならないと美味しいりんごをたくさん収穫できないとなるのです。というわけで剪定はイメージが大切な要素となってきます。収穫時にどんな状態になるのかというビジョンはもちろん総合的な最終イメージをはっきり持たないと剪定はできません。
収穫時の姿をイメージしながら
ということは、季節、季節に応じたりんごの樹の姿、最終の収穫期の姿をイメージさせながら目の前にある裸の樹と向かい合いながら作業を進めていくのです。雪のリンゴ畑に立って、リンゴの樹と向き合い沈黙の時間が流れていく中で集中した状態で剪定鋏、剪定鋸を使って作業がすすんでいきます。
ひと言でいえば剪定には知識、経験そしてセンスが求められます。今年のこの樹の樹齢から、前年の状態を参考にして今年の勢いはどうか、未来を予測した知識、未来を予測できる経験、その品種の個性、未来の天候、その樹の勢いを予測した未来のへのセンスが求められことです。
もちろんですが、剪定というのは作業ではなく仕事といった方が正しいといえます。単純作業としてのリンゴの枝切ではないことは理解していただけることと思います。
思考力、意思決定が常に求められる肉体労働ではないトータルな能力を使い果たす過酷な集中を求められる仕事といっても過言ではないようです。
剪定には色んな流派がある
一言に、剪定といっても、先人たちが築き上げてきた様々な流派があり、またそれぞれの流派を継承する巨匠がたくさんいることも事実です。
一般的には県の試験場がリードして基本的な剪定の理論があり、どのレベルの生産者にも合った生産技術の一環として標準的な剪定理論が存在しています。
基本は基本として大事なのですが、上を目指す人たちは必ず出てくるのです。自分の好みのあった参考にしてきたリスペクトする師匠がいます。それが県内に限らず、業界の情報をもとに山形から青森県、秋田県、岩手県へと出かけて学んできます。
りんご生産者は、若い時から、それぞれの流派の中から自分の感性、スタイルに合った流派の剪定手法を学び、それを基本として自分なりの技術をさらに磨いていくことになっています。
阿部りんご園の生産者阿部さんの師匠は、「ふじりんご」の栽培技術を開発、完成させた青森県弘前市の斎藤昌美という方で、故人ですが「りんごの神様」「ふじの育ての親」と謂われたりんご栽培のレジェンドです。
若いころから、収穫の繁忙期が終わる頃からひと冬に何回となく出かけて行っては教えを請うといったことで出かけて行ったが、本当に理解できるには何年もかかったということです。しかしなぜ、りんご生産者は、そこまで剪定技術にこだわるのかといえば、それは、「冬の剪定作業によって、秋に収穫するりんごの品質が決まってしまう」からと言えるからです。
りんご栽培の始まり、基本、根幹といえるこれですべてが決まる過言ではないほど、とても重要な作業だからなのだといえます。
りんごの剪定する現場をみる
剪定は雪の中の仕事です。雪とお天気との会話が必要といいますから、雪の中の作業は厳しいものがあります。
そんな足場の良くない状況で、しかも雪がちらつく中、すでにりんご作業は始まっていました。阿部さんが黙々と行っていたのは、剪定する足場の確保のために除雪をしていました。
足場を良くすることで作業は数段違いが出るからです。1-2日で終わる仕事ではなく1カ月以上かけて行い仕事ですから足場が悪い中で無理をすると足腰に負担がかかって続けることが出来なくなるからです。
こちらの発送も経験から雪の状態を見ながら進めていく計画的な方法といえます。天気と雪と相談して決めた事、1回のシーズンを経験しただけでは決して出てこない発送なのだと感じました。
このように剪定作業には経験が欠かせません。「千本の樹(りんご)を切らなければ、一人前にはなれない」との格言があるくらいです。何千本ものりんごの樹を剪定してきたからの経験と記憶と想像(イメージ)からくる意思決定なのです。
使う道具は剪定鋸と剪定鋏
剪定の姿をみていると、もはや「りんご生産者」というより「りんご職人」といったところです。その剪定作業の必需品といえば、専用の剪定鋸、剪定鋏です。剪定鋸には普通サイズの鋸と柄の長い長柄鋸の2種類。
剪定鋏には普通の剪定鋏と柄の長い長柄の剪定鋏の2種類、合計4種類の道具を操っています。その種類や品質たるもの、鍛冶職人が作る高価なものからホームセンターで購入できるものまで様々、ピンキリあります。
もちろん生産者にもいろんな人がいますから、プロ意識の高い人は高価な方を選ぶことが多いように見受けられます。腰のベルト右側の鋏ケースには、ピストルのごとく剪定バサミを装着し、左側の腰の鋸のケースには日本刀をイメージさせる剪定鋸を入れて備えます。
しかし、この日阿部さんが使っていた鋸は、高い枝にも届くように柄の部分がかなり長い鋸で、長野県の鍛冶屋さんが作った長年使っている剪定鋸です。
切れ味は最高に良いのだそうで、日本刀というよりは、柄が長いので槍ですね。(通称:長柄鋸)といっています。
美味しいリンゴ剪定作業 まとめ
一般的には県の試験場がリードして基本的な剪定の理論があり、どのレベルの生産者にも合った生産技術の一環として標準的な剪定理論が存在しています。基本は基本として大事なのですが、標準的な技術に飽き足らない上を目指す人たちは必ず出てくるのです。
しかし、剪定にもいろいろな流派、考えがあり、剪定の仕方も変わってきます。りんごの産地の各県などには、試験場の指導とは別に長年の経験とじっけ気をバックグラウンドにした独自の仕方があり、良いりんごを生産し、剪定の仕方を教えている指導者もいます。
阿部さんの剪定のポイント「りんご作り(剪定)に大事なこと」
理入(理論)として
基本的な理論はしっかり身につけることはもちろん、この基本からくる応用の範囲を広げてしっかり身に付けることが大事です。
そして、自分が実践して出来た結果をしっかり理論的に分析して説明できることが技術レベルを高めていくことにつながります。
行入(実践と経験)として
現場の状況、環境違いによる応用範囲の広い経験豊富な師匠を見つけしっかりと素直に技術を受容する能力を身につけることです。
それによって剪定時の姿から収穫時のイメージ出来る能力を身につけること。そして鋭い観察力とお天気の変動に応じた臨機応変な対応力をみがきあげることが大事です。